皆さんの会社では、従業員の副業や兼業を認めていますか?近年、「スキマバイト」等空いた時間に自由に仕事を選ぶスタイルが学生や社会人問わず流行っています。つまり、普段就業している皆さんの会社の従業員も、従業員の身分でありながら他社で勤務すること、いわゆる「副業や兼業(以下『副業等』という)」が簡単に出来る時代になっています。
その証拠に、大手企業等は人材採用戦略の一環として副業等を積極的に認めるケースが増えてきているほどです。どの業種も人手不足と言われている現代において、人材採用と確保は以前に比べて極めて重要だといえます。しかし、副業等を全て認めてもいいのでしょうか?例えば、自由に認めた結果、本来の業務に支障が出てしまっては本末転倒になってしまいますので、ある一定の要件が必要となってきます。
そこで今回は、副業等を認める際の労務管理上の留意点について説明します。なお、内容が多岐にわたりますので、今回は労務管理全体の部分を、次回は「副業等における労働時間通算の考え方」の2回に分けて説明します。
副業等に関する法的なルール
2024年現在、副業等について法的なルールや制限はありませんが、厚労省が「ガイドライン(副業・兼業の促進に関するガイドライン)」を公表しています。ガイドラインをご覧になれば分かりますが、厚労省は「積極的に副業等を促進する」姿勢でいます。
本稿では、この「ガイドライン」の内容を基に説明しますので、ガイドラインも同時に確認しておくことを推奨します。以下にガイドラインが掲載されているURLを掲載します。
厚生労働省HP:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html
副業等を認める際の要件を就業規則に明記しておくこと
先述したとおり、副業等を要件や制限なく認めてしまうと、本来の業務に支障が出てしまう可能性がありますので、一定の要件が必要です。これについて、ガイドラインでは以下の事由に該当した場合は一定の制限や要件を課すことは可能という見解を示しています。
① 労務提供上の支障がある場合
② 業務上の秘密が漏洩する恐れが場合
③ 競業により自社の利益が害される恐れがある場合
④ 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
労務提供上の支障がある場合
①は、副業等の労働時間や対応時間が長くなること等により、本業に支障が出る場合が考えられます。具体的には、寝不足や過労の蓄積等です。これが続いてしまうと、本業でミスをしてしまったり、寝坊による遅刻等業務遂行能力や勤務成績の低下につながってしまいます。
ガイドラインでも、「副業・兼業の内容について労働者の安全や健康に支障をもたらさないか確認するとともに、副業・兼業の状況の報告等に ついて労働者と話し合っておくこと」と見解を示していますので、例えば副業等における労働時間や対応時間等を適宜報告してもらい、当該時間の状況に応じて、本業の業務に支障が出るようでしたら、副業等を制限または禁止する等のルールを設定はしておいた方が良いでしょう。
業務上の秘密が漏洩する恐れが場合
②は、従業員は、会社の業務上の秘密を守る義務を負っていると考えられています(秘密保持義務)。副業・兼業に関して問題となり得る場合として、従業員が業務上の秘密を他の会社の下で漏洩する場合や、副業等の先の会社の情報の業務上の秘密を本業の会社に漏洩する場合が考えられます。これについて、ガイドラインでは、以下のとおりの見解を示しています。
- 就業規則等において、業務上の秘密が漏洩する恐れがある場合には、副業・兼業を禁止又は制限することができることとしておくこと
- 副業・兼業を行う労働者に対して、業務上の秘密となる情報の範囲や、業務上の秘密を漏洩しないことについて注意喚起すること
実務上では個別判断となりますが、共通のルールとして就業規則に予め規定しておくことは重要でしょう。
競業により自社の利益が害される恐れがある場合
③は、従業員は、一般的に、在職中において会社と競合する業務を行わない義務を負っていると考えられています。(競業避止義務)。例えば、従業員が在職中にもかかわらず本業で培った知識、経験、人脈等を利用することにより、競業企業を設立したり、競業会社に雇われる可能性が高くなります。
その場合、先述した秘密保持義務違反でもいえることですが、本業の技術情報やノウハウ、顧客データを流用されるリスクが高くなります。これについて、ガイドラインでは、「競業避止の観点から、労働者の副業・兼業を禁止又は制限することができる」と認めつつも、「副業等における業務内容等に鑑み、本業の会社(自社)の正当な利益が侵害されない場合は、同一の業種・職種であっても、副業等を認めるべきである」旨の見解を示しています。
具体的には、自社の正当な利益を侵害しないために、以下の要件等を課すことは可能としています。
- 就業規則等において、競業により、自社の正当な利益を害する場合には、 副業・兼業を禁止又は制限することができることとしておくこと
- 副業・兼業を行う労働者に対して、禁止される競業行為の範囲や、自社の正当な利益を害しないことについて注意喚起すること
- 他社の労働者を自社でも使用する場合には、当該労働者が当該他社に対して負う競業避止義務に違反しないよう確認や注意喚起を行うこと
特に重要なのが「競業行為の範囲」です。「競合他社に勤務する」等のような包括的なルールではなく、「どのような行為が競業行為になるか(自社の利益を害する行為になるか)」を具体的に列挙して明確化しておくとよいでしょう。
自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
④は、主に副業等先の業種や業務内容が、自社のコンプライアンス上好ましくないものである可能性がある場合です。例えば、脱法行為を疑うような業務内容であったり反社会的勢力とのつがなりが疑われる企業等に勤務する場合等です。この場合、自社の社会的信用を低下させる恐れがあります。ガイドラインでは、「誠実義務」と呼称し、これらの業務や勤務すること自体を禁止することは可能という見解を示しています。
副業等の可否の判断のポイント
先述したとおり、従業員の副業等は一定の要件や制限を課したうえで認めるという対応が望ましいです。では、副業等の申し出が従業員から実際にあった場合、具体的にどの部分に着目して可否の判断をした方が良いのでしょうか。これまで説明した内容も含め、以下の部分がポイントといえるでしょう。
①副業等先の事業内容や企業名(競業業種に該当していないか)
②副業等先の業務内容(競業業務に該当していないか、情報漏洩や企業秘密の漏洩の恐れはないか等)
③副業等先での勤務形態(疲労の蓄積度はどのくらいか、雇用契約か請負契約か、勤務場所等)
③では、1日何時間の勤務なのか、週何日勤務なのか、どこで働き、自宅からどのくらいの距離なのか等を把握し、疲労の蓄積度や副業等をしてもしっかり休息を確保できるのか等を本人にヒアリングしておくと良いでしょう。また、雇用契約の場合、自社と副業等先の会社での労働時間は通算されます。したがって、副業等先の労働時間を適宜報告してもらい、全体の労働時間を把握することが必要です。この「労働時間の通算」の部分は、次月号にて詳細に説明します。