時間外労働の上限規制について<タクシー運転手編>

 

2024年4月より、一定の業種(建設業・自動車運転等のドライバー・医師・一部の製造業)に対して、「時間外労働の上限規制」が課されます。前回(バス運転手編)に引き続き、時間外労働の上限規制について解説します。第三弾は「タクシー運転手編」です。

 

①「タクシー運転手」における「時間外労働」の上限規制とは

以前のブログで、「時間外労働とは何か」という内容を説明しましたので、今回その説明は割愛します。もし閲覧されたい場合は、以前のブログをご確認ください。

タクシー運転手等自動車運転業務に従事する従業員は、これまでは基本的には36協定を届け出る際に時間外労働の限度時間について特に上限が設けられていませんでしたが、来年度以降は以下の上限規制が課されます。

(A)残業は原則として「月45時間・年360時間」を上限とし、「特別の事情」がなければこれを超えることができないこと(1年単位の変形労働時間制の場合は「月42時間・1年320時間」)

(B)「特別の事情」がある場合でも、時間外労働の上限は「年間で960時間以内」とすること

基本的には、全業種において(A)の時間を超えて働かせることはできません。ただし、「特別の事情」があり、どうしても(A)の上限時間内に収めることが難しい場合に限り、上限時間を(B)まで延長することができます。

②「タクシー運転手」も、時間外労働以外にも遵守しなければならない時間がある

運送業やバスの運転手と同様、タクシー運転手にも、独自のルールとして「拘束時間・休息時間」という時間の考え方が設けられています。なお、運送業やバス運転手には「運転時間」という考え方がありますが、タクシー運転手には適用されていません。

拘束時間とは、「出勤した時間から退勤した時間」までのことをいいます。つまり、「労働時間+休憩時間」のことをいいます。休憩時間だけでなく、乗客を待つ時間や、出発までの待機時間等も拘束時間に含まれます。

休息時間とは、「退勤した時間から翌日出勤した時間」までの時間のことをいいます。

上記の時間に対して、長時間労働や拘束に伴う疲労の蓄積による交通事故等を防ぐために、現在「改善基準告示」という厚生労働省が設けたルールにより制限が課されていますが、2024年4月以降は、このうち「拘束時間」と「休息時間」について、さらに制限が厳しくなります。

また、拘束時間や休職時間のルールについて、タクシー運転手の場合は「日勤者」と「隔日勤務者(以下、「隔勤者という」)」に分かれ、それぞれにルールが設けられています。「隔勤者」とは、始業及び終業の時刻が同一の日に属さない業務に従事する運転手のことをいいます。2労働日の勤務を一勤務にまとめて行うものであり、主に深夜時間帯に運営しているタクシー業が導入している勤務形態です。

 

それでは、基本を押さえたところで、具体的にどのように変わるのか確認していきましょう。

 

(1)拘束時間

拘束時間は、1日、1か月単位で上限時間が設けられており、それぞれ来年度以降は以下のとおりに変更されます。日勤者と隔勤者でそれぞれ分けて説明します。

① 1日の拘束時間(日勤者)

1日の拘束時間は、原則として13時間までとされており、例外として16時間までとされていましたが、来年度以降はこの例外となる時間が15時間に短縮されます。ただし、週3回を限度に、14時間を超えることができます。

② 2暦日の拘束時間(隔勤者)

隔勤者の2暦日の拘束時間は、「22時間以内、かつ、2回の隔日勤務を平均し、隔日勤務1回当たり21時

間以内」です。これまでは、「2暦日で21時間以内」のみのルールでしたが、1回の勤務における拘束時間は1時間増え、その代わり2回の勤務平均では従来の21時間を遵守するよう求めています。柔軟に対応が可能になったということでしょう。

③ 1か月の拘束時間(日勤者)

日勤者の場合は、「288時間」になります。改正前は「299時間」でしたが11時間減少となります。

④ 1か月の拘束時間(隔勤者)

隔勤者の場合は、「262時間」で変更はありません。また、地域的事情その他の特別な事情(例えば顧客需要の状況等)がある場合において、書面による労使協定を締結した場合には、 1 年のうち 6 箇月までは、1 箇月の拘束時間を「270時間」まで延長することができます。この例外ルールも変更はありません。

(2)休息時間

① 日勤者の場合

日勤者の休息時間は、現在は「継続8時間」というルールですが、これが拡張され「継続11時間を基本とし、9時間下限」になります。つまり、最低1時間は多く休息時間を確保する必要があります。なお、11時間は「努力義務」になります。

③ 隔勤者の場合

隔勤者の休息時間は、現在は「継続20時間」というルールですが、これが拡張され「勤務終了後、継続24時間以上与えるよう努めることを基本とし、継続22時間下限」となります。つまり、改正後は、最低2時間は多く休息時間を確保する必要があります。なお、24時間は「努力義務」になります。

タクシー運転手についても、2024年問題については、「時間外労働の上限規制」と「拘束時間・休息時間の時間制限の厳格化」の2つが存在することになりますので、入念な準備と対策が必要です。

④ 上限規制等に向けての実務対応策

 ✓ 「法定休日」を特定する

来年度の上限規制では、規制内容が「法定休日労働時間」が含むものと含まないものがあります。したがって、就業規則等で法定休日を特定し、適正に管理するようにしましょう。タクシー運転手においても、特別条項は「法定休日労働」は含まれません。したがって、割増賃金の支払いは1.25から1.35と増えますが、やむを得ない場合は法定休日労働として取り扱うことも選択肢の一つです。ただし、拘束時間や運転時間等の規制は法定休日労働でも課されますので注意しましょう。

 ✓ 「週の起算日」を特定し、振替や代休の活用をしやすくする

労働基準法では、特に就業規則等で定めがない場合は「日曜日起算」とされています。この起算日を就業規則等で特定し、振替や代休を活用しやすくします。例えば、日曜日を法定休日として設定している場合、起算日が日曜日ですと急な休日出勤があったときに、振り替えられる日が残りの休日(所定休日)の1日しかありません。これを、月曜日以降にすることで、振り替えられる日を1日増やせることができます。代休も同様です。

 ✓ 「日勤勤務」と「隔日勤務」は頻繁に併用しない勤務体制を編成すること

日勤勤務と隔日勤務を併用して頻繁に勤務態様を変えることは、ドライバーの生理的及び精神的機能への影響に鑑み認められません。絶対に併用してはいけないわけではないですが、もし併用する場合は、日ごとに変更するのではなく、一定期間ごとに交替させるよう勤務割を編成しましょう。

 

この記事の著者

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特定社会保険労務士 特定行政書士 岩瀬事務所

岩瀬孝嗣 社労士

「100年続く企業づくりをサポートする」ことを経営理念として、通常の労働社会保険手続き代行や給与計算代行、労務相談対応の他に、以下の4つの面からサポートを行っている。「働き方改革への対応」 「賃金・人事評価制度の導入・見直し 」「外国人雇用の活用 」「助成金・補助金の提案及び申請」。最近は「ハラスメント防止研修」や労務管理の基礎知識を学ぶ「人事労務管理研修」等、管理職向けの研修に力を入れている。

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