副業・兼業における労務管理の注意点

投稿日:2021年8月5日(当記事の内容は投稿日時点のものです。)

近年、人生100年時代と言われる中、個々人が自由な働き方を選ぶことができる働き方の多様性が推進されています。大企業に続き、中小企業も副業を容認する企業が徐々に増えています。しかしながら、労務管理をするにあたり、「兼業・副業」に特有のルールがあることが知られていないケースがあります。今回は「兼業・副業」を容認(新たに導入)する際の注意点について4つの項目に分けて解説します。

 

1.労働時間の把握

労働基準法第38条第1項では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されています。また、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合を含むとされています。

会社は労働者が副業・兼業をする場合、他社の労働時間の実態も把握する必要があるのですが、それでは会社の事務的な負担が重くなります。これを解消するため「管理モデル」と呼ばれる管理方法が、2020年9月施行のガイドラインで提唱されました。この管理方法を採用することで、会社は自社についての労働時間のみ把握すれば良いということになります。その内容は次の通りです。

・副業・兼業をしている者の労働時間の把握は「労働者の自己申告制」によるもので、申告漏れ等があっても会社側は責任を負いません。

・労働者は本業(A社)と副業(B社)の労働時間を通算し、それぞれの会社の時間外労働の上限をその会社に申告し、各々の会社はその上限枠の中で仕事をさせます。また、それぞれの会社が各々の割り増し賃金を支払います。

・手順としては、本業(A社)は副業(B社)を行う労働者に対して、「管理モデル」を採用することを求め、労働者及び労働者を通じてB社(後に労働契約した会社)が応じることによって導入されます

この「管理モデル」を採用することで、労働基準法も守られ、労使双方の手続上の負担も軽減されます。

 

2.健康管理について

労働安全衛生法第66条等では、使用者は労働者が副業・兼業をしているかにかかわらず、健康診断等を実施しなければならないとしています。また、労働契約法5条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と事業主の安全配慮義務を定めています。これらの法律からも分かるように、長時間労働や不規則な労働による健康障害を防止する観点から、副業・兼業をしている労働者には時間外労働・休日労働の免除や抑制を図るなど、適切な措置を取るようにしましょう。

 

3.労災保険の給付について

2020年9月の法改正で、副業・兼業を行う人の労災保険の給付が手厚い内容へと変更されました。今までは労災が発生した事業場の賃金のみを基礎として保険給付が算定されていましたが、この改正で、労働者が勤務する複数事業所の賃金を基礎に支払われるようになりました。また、労働者は勤務する複数の事業所で労災に加入することになりますが、本業の会社と副業の会社で個別に労災認定されなかった場合でも、両者での仕事を総合的に判断して労災認定されることとなりました。

 

4.社会保険について

副業・兼業をしている労働者について、雇用保険と社会保険(厚生年金保険・健康保険)では取り扱いが異なりますので注意が必要です。

・雇用保険

複数の事業主に雇用されている者がそれぞれの雇用関係において被保険者要件を満たす場合、その者が生計を維持するに必要な「主たる賃金」を受ける雇用関係についてのみ被保険者となります。複数の事業所勤務であっても、それぞれの事業所で加入するということはありません。

・社会保険(厚生年金保険・健康保険)

複数の事業所に勤務する場合、労働者本人がいずれかの事業所を選択して社会保険の加入届け出を提出します。選択された年金事務所と医療保険者において各事業所の報酬月額を合算して、標準報酬月額が算定され、保 険料が決定されます。労働者はそれぞれの事業所で、報酬額に応じた按分割合で保険料が徴収されます。事業主も雇い入れた労働者に支払う報酬額に応じて按分した保険料を納付することになります。雇用保険のように主たる事業所で加入すればよいという考え方ではありませんので注意してください。