フレックスタイム制の勤怠管理とは?要件のポイントを社労士が解説

近年、「多様な働き方」のニーズが高まり様々な勤務体系を導入、活用している企業が増えています。特に新型コロナウイルスが蔓延した2020年以降は従来の「会社に出勤して所定労働時間働いて退勤する」という働き方自体が見直され、テレワーク等柔軟性のある勤務形態が推奨されるようになりました。コロナ禍が落ち着いた後も、令和7年度の育児介護休業法の改正において「テレワークの努力義務化」や「フレックスタイム制の導入」など育児との両立支援の面でも推奨されています。

今回は、そのなかでも最も身近でかつ導入しやすい「1か月単位」のフレックスタイム制に焦点を当て、党務担当者が特に悩みがちな「勤怠管理の実務ポイント」を社労士目線で整理しました。

※ 育児介護休業法については「2025年4月施行|育児・介護休業法の改正ポイントを社労士が解説」で解説しています。

この記事で分かること

  • フレックスタイム制の制度概要
  • 導入のメリット・デメリット
  • フレックスタイム制における勤怠管理のポイント

「フレックスタイム制」とは?制度の基本概要

フレックスタイム制とは、一定の期間(例えば1か月の給与計算期間)についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、従業員が各労働日における「始業時刻・終業時刻」を自由に決められる制度です。

通常、就業時間は「9時から18時まで」というように、始業時刻・終業時刻が契約によって固定されています。しかし、フレックスタイム制では「今日は集中したいから8時に来て16時に帰る」「明日は通院のために11時に出勤する」といったように、始業時刻・終業時刻を従業員の選択に委ねています。ポイントは「1日の就業時間を自分で決めることができる」ことです。

フレックスタイム制導入のメリット・デメリット

制度を円滑に運用するメリット:柔軟性と生産性の向上ためには、利点と注意点の双方を理解しておくことが不可欠です。

メリット:柔軟性と生産性の向上

(1)1日の就業時間を従業員自身で決めることができる
(2)労働時間を効率的に配分できる
(3)求人のアピールになる

(1)は、従業員にとっては業務や生活の都合により自由に「働く時間帯」を決めることができるため、ワークライフバランスがとりやすくなります。(2)は、労働時間を効率的に配分することができるようになる点です。例えば「今週結構残業してしまったから、来週勤務時間をセーブしよう」等メリハリの効いた働き方が可能です。その結果、長時間労働の改善につながり、また職場の定着率も向上します。(3)は、ワークライフバランスがとりやすくなることは、人手不足と言われている現代では人材確保と定着の面で重要な要素になり得ます。

デメリット:管理上の注意点

(1) 社内会議や打ち合わせ等の時間設定がしにくい
(2) 労働時間の把握がしづらい
(3) 自己管理ができない従業員には向かない

(1)は、社内会議や打ち合わせ等の時間設定がしにくいという点が挙げられます。1日の労働時間を各従業員で自由に決められるので、時間帯によっては社内に従業員が不在となる場合があります。また、取引先や顧客からの問い合わせ等の電話に対応できないという不都合が生じることもあります。(2)は、労働時間の把握がしづらくなるという点です。定時出勤ではないため、総労働時間の把握がしづらくなり、給与計算期間にならないとどれくらい働いたか、残業をしたかがわかりにくいケースがあります。(3)は、1日の労働時間を自由に決められるので、自己管理ができない従業員には向かない点です。自己管理能力の低い従業員の場合、ルーズな状態を助長してしまい、その結果ダラダラ残業等が発生してしまうことがあります。

フレックスタイム制における勤怠管理のポイント

フレックスタイム制の勤怠管理において、最も重要なのが「精算期間」と「総労働時間」の考え方です 。

精算期間とは

「清算期間」とは、「所定労働時間を定めた一定の期間」のことをいいます。清算期間はフレックスタイム制における勤怠管理の一番重要なポイントです。

通常、労働時間管理は1日単位または週単位で精算します。例えば法定労働時間です。法定労働時間は、1日8時間または週40時間までとされています。当然ながら、1日の労働時間が8時間を超過したら、当該超過分は割増賃金付きの残業代として支給する必要があります。また、欠勤控除や遅刻・早退控除も通常1日単位で精算します。

 一方、フレックスタイム制における「清算期間」は原則として「1か月以内」と範囲をさらに広く設けることができます。2020年の法改正により最大「3か月以内」まで広がりましたが、一般的には、給与計算対象期間と合わせて「1か月」とすることが多いです。起算日は、給与計算対象期間に合わせる場合は、給与計算対象期間の初日となります。

総労働時間の決め方

総労働時間とは、清算期間における「所定労働時間」です。フレックスタイム制では、清算期間内において「総労働時間」を定める必要があります。この総労働時間は、次の計算式で算出します。

  清算期間の総労働時間=清算期間の所定労働日×1日の所定労働時間(標準となる労働時間)

ただし、この総労働時間を定めるにあたっては、以下のとおり「法定労働時間の総枠」の範囲内としなければなりません。

表1 法定労働時間の総枠(清算期間を1か月とした場合)

清算期間の暦日数法定労働時間の総枠
28日160時間00分
29日165時間42分
30日171時間25分
31日177時間08分

【特例:完全週休2日制の場合】

なお、2020年の法改正で、「完全週休二日制」を設けている場合は、特例として表1の総枠を超える月があっても、上記の式で算出した時間を総労働時間として良いとされています。例えば、1日の所定労働時間が8時間で月の所定労働日数が23日の場合、「184時間」が総枠となります。この場合、上記図の総枠を超えてしまいますが、完全週休二日制を設けている場合は特例として184時間を総枠として設定して良いということです。

実務で迷う「ケース別」清算方法

代表的な5つのケースについて解説します。

  1. 残業時間
  2. 法定休日出勤
  3. 深夜労働
  4. 欠勤・遅刻早退時
  5. 年次有給休暇

残業時間の清算方法

フレックスタイム制が採用されている場合、清算期間における実労働時間のうち法定労働時間の総枠を超えた時間数が法定時間外労働となります(図1)。したがって、1日9時間を働いたとしても、またある週だけ40時間を超えてしまったとしても、最終的に当該総枠を超えていなければ法定時間外労働とはならないのがポイントです(図2,3)。

図1 フレックスタイム制における残業時間考え方
図2 【比較】1日単位で見た場合(フレックスタイム制)
図3 【比較】週単位で見た場合(フレックスタイム制)

もちろん、割増率(1.25)もこの総枠を超えた時間から発生します。また、フレックスタイム制を運用しているクライアントからよく「時間外労働分を翌月に繰り越し、翌月の総労働時間と相殺できないか」というご相談をいただきます。しかし、時間外労働分は必ず清算期間内の給与で清算しなければならないため、繰り越すことはできません。

参考:通常の時間外労働については「時間外労働の上限規制について<建設業編>」で解説しています。

法定休日出勤をした場合の清算方法

会社は、労働基準法上1週間に1日または4週間に4日の休日を従業員に付与しなければならなく、原則としてこの日に労働させることはできません。これは、フレックスタイム制を導入している場合も同様です。したがって、フレックスタイム制であっても、法定休日に労働した場合には、たとえ清算期間中の労働時間が総労働時間を超えていなくても、法定休日労働の割増賃金(割増率1.35)を支払う必要があります。

なお、所定休日労働は②残業時間の取り扱いになります。今一度、所定休日及び法定休日が何曜日であるか就業規則等で確認しておきましょう。

深夜労働をした場合の清算方法

深夜労働は、労働基準法上、労働時間にかかわらず22時~5時までの労働に対して支払わなければなりません。これは、フレックスタイム制を導入している場合も同様です。したがって、清算期間中に深夜労働が発生した場合は、その都度発生した時間分を支払う必要があるので注意しましょう。

欠勤・遅刻早退時の清算方法

先述したとおり、フレックスタイム制では労働時間の管理を清算期間中の総労働時間を単位として行うため、1日単位で欠勤控除や遅刻早退控除を行うという考え方がありません。したがって、清算期間中に欠勤や遅刻、早退をした時間があっても、実労働時間が当該期間における総労働時間を満たしている限り控除することはできません。

逆に清算期間中の実労働時間が、当該期間における総労働時間を下回る場合には、その時間分控除することができます。また、不足した時間分の給与控除をせずに翌月に繰り越して総労働時間に加算することも、法定労働時間の総枠の範囲内に限り可能です。

年次有給休暇を取得した場合の清算方法

年次有給休暇は、実際に労働をしているわけではないため、「実労働時間」に算入する義務はありません。ただし、「働いたものとみなして給与を支給する」という制度であるため、年次有給休暇を取得したことによって「総労働時間」を超過した場合は、当該超過分は支給する必要があります。(割増賃金は不要。)例えば、以下のケースがあったとします。

・総労働時間:160時間

・実労働時間:156時間

・年次有給休暇を取得した日数、時間:1日、8時間

・年次有給休暇を合算した時間:164時間(年次有給休暇取得日数1日)

この場合、実労働時間は総労働時間に満たないですが、年次有給休暇を取得した時間を合算すると超過しているため、4時間分の給与を追加で支給する必要があります。ただし、この4時間は実労働時間ではないため、割増賃金(1.25)は不要です。

導入に必要な手続き

フレックスタイム制を導入するためには就業規則に、精算期間や総労働時間の決定方法、労働者に始業・終業時刻を委ねる旨などを記載する比喩王があります。それに伴い「就業規則の改定」と「労使協定の締結」が必要です。

前者は「従業員代表の意見」が、後者は「従業員代表の同意」が必要ですので、導入する際はその趣旨を明確にして従業員の理解を得られるように進めましょう。

最後に

フレックスタイム制は、従業員が始業・終業時刻を自ら決定することで、ワークライフバランスの向上や労働時間の効率的な配分を可能にする強力な制度です 。一方で、適正な運用の迷走を防ぐためには、以下のポイントを正しく理解しておく必要があります。

  • 制度の土台作り: 就業規則の改定や労使協定の締結といった法的ステップを確実に踏むこと 。
  • 管理の軸を定める: 「精算期間」と「総労働時間」を明確にし、法定労働時間の総枠(上限)を遵守すること 。
  • ケース別の清算ルール: 残業代は1日単位ではなく精算期間の総枠で判定することや、有給休暇・休日労働の扱いを整理しておくこと 。

柔軟な働き方を支えるためには、こうした客観的かつ正確な労働時間の把握が欠かせません 。1日単位の管理とは異なるフレックス特有の集計ルールに慣れるまでは、集計ミスや確認漏れを防ぐためにも、自動計算が可能な勤怠管理システムなどのツールを賢く活用し、事務負担を軽減することも一つの有効な手段です 。

社内のコミュニケーションや自己管理のあり方を整えつつ、制度のメリットを最大限に引き出していきましょう 。

この記事の著者

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特定社会保険労務士 特定行政書士 岩瀬事務所

岩瀬孝嗣 社労士

「100年続く企業づくりをサポートする」ことを経営理念として、通常の労働社会保険手続き代行や給与計算代行、労務相談対応の他に、以下の4つの面からサポートを行っている。「働き方改革への対応」 「賃金・人事評価制度の導入・見直し 」「外国人雇用の活用 」「助成金・補助金の提案及び申請」。最近は「ハラスメント防止研修」や労務管理の基礎知識を学ぶ「人事労務管理研修」等、管理職向けの研修に力を入れている。

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