キャリアアップ助成金(正社員化コース)とは?要件のポイントを社労士が解説

皆さんの会社では、助成金を活用されていますか?近年、深刻な人手不足への対策の一環として、雇用関係の助成金制度の拡充や新規創設等が積極的に行われています。
 今回は、そのなかでも最も人気のある「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」について、非正規社員の正社員化を検討している企業の人事・労務担当者の方に向けて整理しました。適正な労務管理を行っていれば、大変取り組みやすい内容になっています。ぜひ今後の人材活用戦略等の面でご参考いただけると幸いです。

この記事で分かること

  • キャリアアップ助成金(正社員化コース)の制度概要
  • 企業規模別の支給額
  • 申請・受給にあたっての主な要件

正社員化で活用できる「キャリアアップ助成金」とは?

キャリアアップ助成金の正社員化コース(以下「正社員化コース」という)とは、「有期雇用労働者(契約社員やアルバイト、パートタイマー等)」や「無期雇用労働者」を「正社員」に転換することによって受給できる助成金のことをいいます。

有期雇用労働者・無期雇用労働者の定義

また、有期雇用労働者と無期雇用労働者は以下のような社員を指します。

  • 有期雇用労働者:「契約社員(アルバイトやパートタイマー等)」など契約期間が予め定められている労働者のこと
  • 無期雇用労働者:契約期間は正社員と同様に期限の定めのない無期雇用ではあるが、仕事内容や責任等が実質的に契約社員やパートタイマー等と同じである雇用形態の労働者のこと

いくらもらえる?キャリアアップ助成金の受給額

正社員化コースにおける受給額は以下の図のとおりです。

図1:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度版)(パンフレット)」P6より抜粋

重点支援対象者とは?

なお、「重点支援対象者」とは、上記の図に記載されているとおり、正社員へのキャリアアップの価値が客観的に高い労働者のことをいいます。これまで有期契約の期間が長かったり、正社員としての経験がないまたは少ない労働者などが該当します。
キャリアアップ助成金の正社員化コースは令和7年度から始まった制度であり、助成額が上乗せされています。詳細は以下のURLのパンフレットをご覧ください。

URL(厚生労働省HP):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html

キャリアアップ助成金(正社員化コース)の要件と勤怠管理・賃金管理との関係

ここからは、申請して受給するまでの主な要件を説明します。要件は会社側と労働者側にそれぞれ細かく定められていますので、ここでは重要な要件をピックアップして説明します。

【要件①】キャリアアップ計画をハローワーク等に提出していること

キャリアアップ助成金全般に言えることですが、正社員化等の取組を行うためには、まず「キャリアアップ計画書」という書類を管轄のハローワークや助成金事務センターに提出しなければなりません。計画書では、主に以下の内容について記載します。この計画書を提出していないと、たとえ正社員化を行っても助成金の対象になりませんので忘れないようにしましょう。

なお、計画書では「計画期間(3年以上5年以内)」を策定するのですが、遡っての設定はできません。提出した日の翌日以降で設定することが必要です。また、既に提出している会社は、計画期間が切れていないか随時確認しておきましょう。計画期間が切れた後に再度計画書を提出せずに正社員化してしまうと、これも受給の対象外となってしまいますので注意しましょう。

計画書は厚生労働省のHPに公表されています。以下にURLを掲示しますので確認してください。
URL:申請様式(キャリアアップ助成金)(令和7年7月1日以降の取組に係る様式)|厚生労働省

【要件②】有期契約労働者に向け就業規則と正社員転換制度を定めていること

初めに、契約社員やパートタイマー等非正規雇用労働者に適用する就業規則を作成していることが必要です。そのうえで、この就業規則に「正社員転換制度」を規定しておくことが求められます。転換の規定例は以下の図2のとおりです。

図2:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度版)」より抜粋
 
これはあくまで規定例であり、現実に人事評価制度を導入していることや、筆記試験を設けていることまでは求められていません。試験は面接のみでも可能です。ただし、どのような従業員を正社員化していいのか、面接を受けても良いのか等要件面は明確にします。

例えば、「勤務成績が良好であること」、「フルタイムで働けること」、「正社員としての職務遂行能力や職責を担うことができること」、「健康状態が良好であること」等が挙げられます。また、「勤続〇か月以上」とありますが、最低でも「6か月」は必要です。詳細は後述しますが、正社員化コースを受給するためには、転換の対象となる従業員の非正規雇用としての雇用実績が最低でも6か月間必要であるためです。

【要件③】正社員向け就業規則に昇給・賞与または退職金制度を定めていること

②と同様、初めに正社員に適用する就業規則を作成していることが必要です。そのうえで、「昇給」、「賞与または退職金制度」を規定していることが求められます。既に就業規則は作成しているがこれらの規定がされていない、または要件に満たない規定となっている場合は、改定する必要があります。それぞれの規定例は以下の図3、4のとおりです。

図3:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度版)」より抜粋
 
続いて、退職金制度の規定例は以下の図4のとおりです。

図4:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度版)」より抜粋

規定のポイントは以下のとおりです。

  • (1)昇給時期、賞与支払い時期を明確にすること
  • (2)「賞与を支給することがある」、や「昇給する場合がある」等曖昧な規定は不可
  • (3)昇給制度、賞与制度の場合、会社の業績や評価の結果等によっては実施、支給しなくても可
  • (4)退職金制度の場合、規定例のような勤続年数に応じた制度でなくても可

重要なのは、「制度を導入し運用していること」です。したがって、(3)のように、正社員化した従業員に対して、会社の業績や評価の結果によっては昇給しなくても、また賞与を支給しなくても、理由をしっかり説明できる状態であり、かつそれらの根拠が就業規則に規定されていれば問題ありません。また、賞与に関しては、図のとおり算定対象期間を設けて運用することが可能です。

【要件④】正社員化後の賃金を「3%」以上増額させていること

ポイントは「賃金総額」という点です。この賃金総額は、以下の手当は含まれませんので注意しましょう。

  • 通勤手当
  • 残業手当(固定残業代を含む)
  • 賞与
  • 「住宅手当」等実費補填を目的とする手当
  • 「精皆勤手当」や「歩合給」等毎月の状況により変動するような性質をもつ手当

一般的には、基本給を増額したり、職務手当等正社員の業務内容や職責等に照らして支給される手当を支給することで対応することがほとんどです。また、正社員化前は時給で、正社員化後は月給という支給形態でも可能ですが、総額が下回らないように予めシミュレーションをしておきましょう。

また、比較対象となる賃金は、正社員化後の6か月の賃金と正社員化前の6か月間の賃金になります。該当機関の勤怠・賃金記録については、事前に整理・確認しておくことが重要です。

→「コラム:勤怠管理とは?勤怠管理の必要性と目的について」を見る

【要件⑤】対象従業員が受給要件を満たしていること

正社員化コースの助成金を受給するためには、対象従業員も一定の要件が課されます。具体的には、主に以下の要件を満たしていることが必要です。

  • (1)正社員化前の勤続年数(雇用保険に加入していない期間は除く)が6か月以上であること
  • (2)正社員化後6か月間勤務し、賃金が支給されていること
  • (3)会社役員等の3親等内の親族でないこと
  • (4)正社員化が予め約束されたものではないこと

(1)及び(2)から分かるように、勤続年数は少なくとも1年以上必要です。また、雇用保険に加入していない期間は除かれますので注意が必要です。なお、「無期雇用からの正社員化」の場合は、「3年以下」という要件は除外されます。

【要件⑥】適正な労務管理を行っていること

基本的には、先述した①~⑤が重要ですが、根本的に助成金の種類にかかわらず、受給するためには適正に労務管理を行っている必要があります。具体的には、以下の内容について整備、対応しているか確認しておきましょう。

  • (1)雇用契約書、就業規則、賃金台帳を照らし合わせて、労働条件について乖離がないか
  • (2)残業代は就業規則に基づき適正に支払われているか
  • (3)雇用保険、社会保険に適正に加入しているか
  • (4)賃金台帳、出勤簿は適正に整備されているか

特に(4)にあるように助成金の申請においては、賃金の増額要件だけでなく、正社員化前後の勤務実態について「客観的な記録」で説明できるかが重要になります。

具体的には、

  • 正社員化前後6か月間の出勤簿
  • 賃金支給と出勤実績の整合性
  • 勤続期間の連続性が分かる勤怠記録

などが、出勤簿や賃金台帳をもとに確認されることになります。規則や契約書を用意すれば終わりではありません。日常的な勤怠管理をはじめとする記録が求められるため、余裕をもって準備をしましょう。

→「コラム:勤怠管理とは?勤怠管理の必要性と目的について」を見る

まとめ|正社員化を進める前に確認すべきこと

キャリアアップ助成金(正社員化コース)は、非正規社員の定着や人材確保を進めるうえで有効な制度の一つです。一方で、制度を活用するためには、正社員化を行う前からの労務管理や記録の積み重ねが重要となります。申請を検討する場合は、事前に自社の管理状況を整理し、要件を満たしているか確認したうえで進めることが大切です。

また勤怠管理については、助成金のためだけでなく、日常の労務管理やリスク対応の基盤となるものです。現状の管理方法に不安がある場合は、事前に確認しておくと安心です。

→「コラム:タイムカードを電子化するメリットと導入に向けてのポイントを紹介」を見る

この記事の著者

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特定社会保険労務士 特定行政書士 岩瀬事務所

岩瀬孝嗣 社労士

「100年続く企業づくりをサポートする」ことを経営理念として、通常の労働社会保険手続き代行や給与計算代行、労務相談対応の他に、以下の4つの面からサポートを行っている。「働き方改革への対応」 「賃金・人事評価制度の導入・見直し 」「外国人雇用の活用 」「助成金・補助金の提案及び申請」。最近は「ハラスメント防止研修」や労務管理の基礎知識を学ぶ「人事労務管理研修」等、管理職向けの研修に力を入れている。

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